侍の白そば+イカ天+紅しょうが天の汁は真っ黒+葱は乱れ切り侍の白そば+イカ天+紅しょうが天の汁は真っ黒+葱は乱れ切り


侍の白そば+イカ天+紅しょうが天の汁は真っ黒+葱は乱れ切り

午前5時40分起床。浅草はくもり。この汁を見た瞬間、あたしの思考は動きだしたのだ。これだよ、この「黒さ」だよと。

その黒さとは「野むら」のイカ墨のようなものとは違う。しかしこの「黒さ」があたしが探していた「黒さ」じゃないのか、とさえ思えた。

この日は鐘ヶ淵の小沢理容店へ行ったのだが、生憎と休みだったのだ。火曜日も休みの日があるなんて知らなかったあたしが悪い。では昼飯を食べて帰るか、と「とうきょうスカイツリー駅」で降りた。

そのままソラマチに行っても良かったのだが、いやちょっと歩こう。ということで「とうきょうスカイツリー駅」から歩いた。それも曳舟駅に向かってである。何故かはよく分からないのだが、「今来たばかりじゃないか」、と鼻先で小さく笑う。

いや、冗談じゃなく間もなく曳舟駅だ。という処で「侍」という店に出合った。こんなところに「立ち喰い蕎麦」があることが自体が可笑しかったのだが、とりあえず中に入ると、腕の太い店主が迎えてくれた。

まだ11時20分である。客はあたし一人だった。

「蕎麦は黒と白の二種類あります」、と云う店主に、(なぜか)周りを見渡して白い蕎麦をお願いする。それにトッピングはイカ天と紅しょうが天である。

何とも期待させる組み合わせだが、出てきた蕎麦を見てある種の懐かしさを感じたのだ。しかしその懐かしさも本当の懐かしさの訳は無く、(たぶん)これが「立ち喰い蕎麦」だ、と想像するあたしの理想形のようなものだ。

その汁は限りなく黒い。そして深い。その黒くて深い汁に浮かぶイカ天と紅しょうが天。そして乱切りにされた葱。そうこの葱!葱の素晴らしさよ。葱が蕎麦に混じって限り無く鼻をくすぐるのだ。

あー、すべてがあたしの理想に近いものだったのだ。でも決して諸手を挙げてうまいとは云いきれない。ここが難しいのだ。このうまいとは云い切れないけれども理想形に近い、というこの「侍」。今度は曳舟駅から行こうと思う(その方が楽なのである)。毎月行っている病院の帰りにである。

侍


東京都墨田区東向島2-11-16